2024年に入り、クラウドサービスはさらなる進化を遂げ、より多機能で柔軟な選択肢を提供しています。一方で、オンプレミスも新しい技術と管理手法の導入により、依然として強力な選択肢となっています。本記事では最新のトレンドとそれぞれのメリット・デメリットをご紹介します。
クラウドとオンプレミスの基本情報
ITインフラの選択には「クラウド」と「オンプレミス」の二つの主要なアプローチがあります。
それぞれの基本情報を簡単にご紹介します。
クラウド
クラウドコンピューティングは、インターネット経由でサーバーやストレージを提供するサービスです。
これにより、企業は必要なリソースを必要な時に、必要なだけ利用できる「スケーラビリティ」を得られます。
クラウドサービスには、インフラ(IaaS)、プラットフォーム(PaaS)、ソフトウェア(SaaS)の三つのモデルがあり、それぞれ異なるレベルの管理と柔軟性を提供します。
オンプレミス(オンプレ)
オンプレミスは、自社内で所有し管理するITインフラを指します。クラウド登場前の「サーバー」と言えば基本的にはこれでした。
サーバーやストレージを自社で設置するためハードの選定から運用までを完全にコントロールできますが、初期投資が高く管理の手間がかかります。
2024年のクラウドとオンプレミスの最新動向
クラウドコンピューティングの最新トレンド
2024年の最新トレンドと言えば、AI(人工知能)の登場です。
これまでは研究者やエンジニアの専門分野だったAIが、一般の人でも簡単に扱えるようになり、仕事のやり方が大きく変わりはじめました。例えば、売上予測や顧客の行動分析にクラウドのAIツールを使うなど、活用シーンが広がりつつあります。
また、マルチクラウド戦略が広がっています。Microsoft AzureとAWSの2つのクラウドサービスを使い分けるなど、一つのプロバイダーに依存せず最適なサービスを選ぶ方法です。これによりシステムの安定性が向上し、必要な機能を効率よく利用できます。
オンプレミスの進化
オンプレミスでは、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)という技術が注目されています。
これはサーバー仮想化技術の一つで、サーバーとSAN(ストレージ専用ネットワーク)、ストレージを一つの物理サーバーにまとめ、管理をシンプルにする技術です。
HCIを導入した複数の物理サーバー間でデータを共有するため、サーバー冗長化やRAIDを構築しなくてもハードウェア障害に強くなるのが特徴です。
またサーバー冗長化やRAIDが不要と言うことは、その分コストを安く抑えられるため、スモールスタートにも適しています。
ハイブリッド戦略
クラウドとオンプレミスのどちらかを選ぶのではなく、両方組み合わせて使うハイブリッド環境が増えてきています。
クラウドの柔軟性とオンプレミスの安定性など、両方のいいとこ取りができるため多くの企業がこの方法を採用しています。
クラウドとオンプレミスの比較
最新の動向を踏まえて、クラウドとオンプレの比較を見ていきましょう。
コストとスケーラビリティ
項目 | クラウド | オンプレミス |
---|---|---|
コスト | 〇 初期投資が少ない × 利用量に応じた従量課金制 × 長期的には料金が積み重なる可能性あり | × 初期投資が高額 × サーバーやストレージを自社で購入・保守 〇 長期的には安定した運用コスト |
スケーラビリティ | 〇 リソースの追加・削除が迅速で簡単 〇 ビジネスの成長や変動に柔軟に対応可能 〇 短期間の需要変動に対応しやすい | × リソースの追加に時間とコストがかかる △ 予測外の需要への迅速な対応が難しいことも △ 物理的な変更が必要で、変更に時間がかかる |
管理の手間 | 〇 プロバイダーがインフラを管理、メンテナンス不要 | × 自社でハードウェアの管理やメンテナンスが必要 |
セキュリティ | × プロバイダーのセキュリティ機能に依存 | 〇 自社でセキュリティを完全に管理・カスタマイズ可能 |
コスト面では、クラウドは初期投資が少なくて済みます。クラウドは「利用した分だけ支払う」従量課金モデルでサーバーやストレージを自分で購入する必要がなく、月々の料金でリソースを柔軟に使用できます。これにより初期コストを抑えることができますが、長期的には利用量に応じた料金が積み重なるため計画的なコスト管理が重要です。
一方、オンプレミスは初期投資が高額になりやすいです。サーバーやストレージ、ネットワーク機器などを自社で購入し、設置・保守する必要があります。しかし、一度購入すれば長期間にわたり利用できるため、運用コストが安定しやすいという利点があります。
スケーラビリティに関しては、クラウドが非常に優れています。クラウドでは必要に応じてリソースを簡単に追加・削除できるため、ビジネスの成長や変動に迅速に対応できます。例えば、急激なトラフィック増加にも即座に対応できるのが大きなメリットです。
オンプレミスは、新たにリソースを追加するには物理的なハードウェアの購入や設置が必要で、これには時間とコストがかかります。予測外の需要に対しての対応が難しいですが、HCIの登場である程度柔軟に対応できるようになりました。
セキュリティとコンプライアンス
項目 | クラウド | オンプレミス |
---|---|---|
セキュリティ | 〇 高度なセキュリティ機能を標準提供 〇 専門のセキュリティチームが常に最新の脅威に対応 × 管理はプロバイダー任せ。自社のポリシーと合わないことも | 〇 自社でセキュリティを完全に管理・カスタマイズ可能 〇 物理的なセキュリティからネットワーク監視まで自社で対応 × セキュリティパッチの適用やサーバー保守など日々の管理が必要 × 高い専門知識とリソースが必要 |
コンプライアンス | 〇 プロバイダーが様々な業界標準や規制(GDPR、HIPAAなど)に対応 〇 プロバイダーによっては、コンプライアンス要件に応じた設定が可能 × 最終的なコンプライアンス責任は利用者側にあるため、契約前の確認が重要 | 〇 自社のコンプライアンス要件に直接対応可能 〇 自社内でのデータ保護が実現 × 規制や基準に合わせた管理が可能だが、追加のコストと労力がかかる |
セキュリティの面ではクラウドサービスプロバイダーが高度なセキュリティ機能を提供しています。データの暗号化や不正アクセスの検出、24時間体制の監視などが標準で含まれており、専門のセキュリティチームが常に最新の脅威に対応しています。これにより多くの企業はクラウドのセキュリティに信頼を置いています。ただしクラウドのセキュリティはプロバイダー任せとなるため、自社のセキュリティポリシーとプロバイダーの対応を確認することが重要です。
一方、オンプレミスでは自社でセキュリティを完全に管理することができます。自社のセキュリティポリシーに合わせて、物理的なセキュリティからネットワークの監視まで細かく設定できます。セキュリティのカスタマイズが可能ですが、その分専門的な知識とリソースが必要です。サーバーの保守やセキュリティパッチの適用など、日々の管理にも手間がかかります。
コンプライアンスの面では、クラウドサービスプロバイダーは様々な業界標準や規制に対応しています。例えばGDPRやHIPAAなど、特定の法律や規制に基づいた認証を持っているプロバイダーも多く、コンプライアンスの要求に応じたサービスを提供しています。しかし最終的な責任は利用者側にあるため、契約前にプロバイダーがどのようなコンプライアンス対応をしているかよく確認する必要があります。
オンプレミスでは自社のコンプライアンス要件に直接対応できます。規制や基準に合わせた管理が可能で、データが自社の施設内にあるため、より高いレベルのデータ保護が実現できます。しかしこれには追加のコストと労力がかかります。
パフォーマンスと管理
項目 | クラウド | オンプレミス |
---|---|---|
パフォーマンス | 〇 高い可用性とスケーラビリティ 〇 リソースを自動的に追加・調整でき、ピーク時にも対応可能 〇 最新のハードウェアで常にアップデートされている | × 物理的なリソースに制限があり、追加のハードウェア投資が必要 × パフォーマンスの向上には時間とコストがかかる 〇 ネットワーク遅延が少ない |
管理 | 〇 プロバイダーが運用・メンテナンスを担当 〇 システムのアップデートやセキュリティパッチの適用が自動 | × 自社でハードウェアの購入・設置・運用・メンテナンスを行う必要がある × 管理にリソースと専門知識が必要 〇 専用ハードウェアでカスタマイズ可能 |
パフォーマンスに関して、クラウドは高い可用性とスケーラビリティを提供します。クラウドサービスは、複数のデータセンターに分散してリソースを配置しており、サーバーの負荷が高くなった場合でも必要に応じてリソースを追加できます。このためピーク時のトラフィック増加にも対応でき、パフォーマンスが安定しやすいです。さらにクラウドサービスプロバイダーはハードウェアを常に更新しているため、高速な処理能力が期待できます。
一方、オンプレミスでは物理的なリソースが限られているため、パフォーマンスの向上には追加のハードウェア投資が必要です。リソースの増強やシステムのアップグレードには時間とコストがかかりますが、専用のハードウェアを使用することで、特定のニーズに合わせたカスタマイズが可能です。またオンプレミス環境は自社内でのアクセスが可能なので、ネットワークの遅延が少なく応答速度が速いという利点もあります。
管理面では、クラウドは管理の手間が少ないというメリットがあります。プロバイダーがインフラの運用やメンテナンスを行っており、システムのアップデートやセキュリティパッチの適用などを自動で行います。これにより、ITスタッフの負担が軽減されます。
対照的にオンプレミスは自社での管理が必要です。ハードウェアの購入や設置、運用、メンテナンスなど、全て自社で行わなければなりません。これにより高いカスタマイズ性が得られる反面、適切な管理には専門知識が必要で、手間とコストも増加します。
業界別の選び方
クラウドとオンプレミスのどちらを選ぶかは業界によって大きく異なる場合があります。それぞれの業界の特性やニーズに応じて慎重に検討しましょう。
いくつかの業界での選定基準についてご紹介します。
金融業
金融業ではオンプレミスが選ばれることが多いです。
金融機関は高度なセキュリティとコンプライアンス要件を満たす必要があり、データ保護やトランザクションの信頼性が重要です。
オンプレミスは自社内での完全なコントロールが可能で、セキュリティポリシーを厳格に適用できます。加えてオンプレミスは取引の迅速な処理と高い可用性を提供するため、ミッションクリティカルな業務に適しています。
医療
医療業界も、データの機密性と規制遵守が求められるため、オンプレミスが選ばれることが多いです。
しかし、最近ではクラウドの導入事例もあります。
例えば、クラウドベースの電子カルテシステムを導入することで、医療機関間でのデータ共有をスムーズにし、診療の質向上を図る事例があります。
クラウドを導入する場合は、データ保護とコンプライアンスの確認が必要でしょう。
小売業
小売業ではクラウドの活用が一般的です。
クラウドは需要の変動に応じてスケーラブルに対応できるため、季節やプロモーションによるトラフィックの変化に柔軟に対応できます。
また、クラウドのAIや分析ツールを使えば、顧客データの解析や在庫管理が効率的に行えます。
製造業
製造業では、両方のアプローチが考えられます。
クラウドは製造プロセスのデータ収集や分析、サプライチェーンの管理に役立ちますが、重要なデータはオンプレミスで管理されることもあります。
近年では、システムやデータの特性に応じてオンプレミスとクラウドを使い分けるハイブリッド環境が選ばれるケースが増えています。
クラウドとオンプレミスの選び方
クラウドとオンプレミスの選択は、企業のニーズや業界の特性に大きく依存します。
まず自社のニーズを明確にし、以下の点を検討することをお勧めします。
コストと予算
初期投資のコストと運用コストを比較し、長期的な総コストを見積りましょう。
オンプレミスの場合、ハードウェアの保守期間が一般的には5年なので、それに合わせクラウドを5年間運用した場合のコストと比較するのがおすすめです。
スケーラビリティ
ビジネスの成長や需要の変動にどれだけ迅速に対応できるかを考慮しましょう。
クラウドであれば、ユーザ数やデータ量の増加に合わせてリソースを追加していく形になります。
オンプレミスであれば、最初から最大値を想定したスペックで検討しておく必要があるでしょう。
セキュリティとコンプライアンス
データ保護や法的規制にどのように対応するかを検討しましょう。
クラウドの場合、クラウドサービスプロバイダーのセキュリティポリシーやコンプライアンス対応が自社の方針と一致するかどうかが大切になります。
管理
自社のITリソースや専門知識に応じて、どれだけの管理負担が許容できるかを確認しましょう。
オンプレミスの場合、管理体制の強さ(弱さ)がセキュリティや障害対応の強さ(弱さ)に直結します。
最後に
本記事ではクラウドとオンプレミスの基本から最新の技術トレンド、業界別の選び方まで幅広く解説しました。
クラウドとオンプレミスの選択は、企業のIT戦略において非常に重要な決定です。
どちらのアプローチを選ぶかは、コスト、パフォーマンス、管理のしやすさ、セキュリティなど、さまざまな要因によって決まります。また技術の進化に備えて、最新の情報を常に把握し、フレキシブルで適応力のあるITインフラを構築することも大切です。
信頼できる情報源を活用し、継続的に知識をブラッシュアップしていきましょう。
そのためにはITMediaやZDNetのIT系ニュースサイトや、Udemyなどのオンライン教育が役に立ちます。
ご覧いただきありがとうございました。変化の速い技術環境に対応し、最良の方法を見つけていきましょう!